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国境をまたがるサービスと特許権



Q 当社が特許権を有するクラウド関連発明αに関して,競合他社が同発明を実施したサービスβを提供していることがわかりました。ただ,そのサービスは複数の事業者により構築されているようで,同サービスを構成する一部のサーバは,外国において,外国の事業者が設置・管理しているようです(なお,このサーバは,特許発明αを構成する要素の一つです)。このような場合でも,αに関する特許権を行使して,日本におけるβの提供を差し止めることは可能でしょうか。
A 特許権に関しては,属地主義という原則があり,侵害者による特許発明の実施行為が日本国内で完結している場合に限り,特許権侵害が成立するものと解されています。したがって,上記のような事案では,貴社による特許権の行使は認められない可能性が高いといえるでしょう。また,設例の事案では,複数の事業者により特許発明αが実施されていますので,この点も,特許権行使の障害になり得ます。


(a)特許権の効力が及ぶ地理的範囲からくる限界



設例の事案における特許権行使の可否を考えるにあたっては,まず,特許権に関する属地主義との関係が問題になります。

属地主義とは,特許権の効力は特許権が成立した国以外には及ばないという原則です(最高裁平成9年7月1日判決)。この原則に基づけば,侵害者による特許発明の実施行為が日本国内で完結している場合に限り,特許権侵害が成立するという理解が導かれることになります。裁判例でも,東京地裁平成13年9月20日判決が,その旨を判示しているところです。

このような考え方を前提とすると,設例の事案では,サービスβの提供にあたり,特許発明αを構成するサーバの一部が外国に置かれているため,αに関する実施行為は日本国内で完結しているとはいえず,特許権侵害は成立しないことになります。

(b)このような結論は妥当か?



ところで,上記のような解釈を貫く場合,システムを構成するサーバの一部を意図的に海外に置くなどの方法により,容易に特許権侵害を免れ得ることになります。設例の事案もそのようなケースかもしれません。現代のネットワーク社会において,このような結論が妥当かという点については,疑問も残るところです。

この点に関して,アメリカの裁判例には,単独主体による特許権侵害の事案ではありますが,特許発明たるシステムを構成するサーバの一部が外国(カナダ)に置かれていたというケースにおいて,国内においてシステムの制御を行うことができ,また,国内でその発明の利益を享受することができるのであれば,特許権侵害の成立を肯定してもよい,とするものがあります(Blackberry事件(418 F.3d 1282 (Fed.Cir. 2005)))。

現在までのところ,日本では,Blackberry事件のような事案における特許権行使の可否が争点になった事例は見当たりませんが,上記のような結論が妥当かという点については疑問も呈されているところであり,今後は,日本でも,法改正や解釈上の工夫により,同事件のような事案でも特許権の行使が認められるようになるかもしれません。今後の動向を見守っていく必要があるでしょう。

なお,以上のような現状を踏まえた当面の対策としては,特許権を取得する際に,システムを構成するサーバごとにクレームを作成しておく,などといった方法が考えられます。このような形でクレームを作成しておけば,日本国内にシステムの一部を構成するサーバが存在する場合には,当該特許権に基づき,当該サーバの使用を差し止めることが可能になります。

(c)特許発明の実施に複数の事業者が関与している点について



設例の事案では,複数の主体によりαの実施がなされているという点も問題になり得ます。ここでは深くは立ち入りませんが,仮に上記のような属地主義の問題がクリアできたとしても,この点がネックとなって特許権の行使が否定されるかもしれません。

この問題は,日本国内の複数の事業者によりサービスβの提供が行われている場合にも生じ得ますが,クレームの書き方を工夫することにより(単独主体により実施行為が完結するような体裁でクレームを作成しておくなど),問題の顕在化を回避することも可能です。詳しくは専門家に御相談下さい。

(弁護士 高瀬 亜富 H25.6.28)